映画『セブン』 雨と絶望の中で交錯する人間ドラマとネクタイ

一番好きな映画は？と聞かれたら、答えはこれ。

1995年に公開された映画『セブン（SE7EN）』は、デヴィッド・フィンチャー監督によるサイコロジカル・サスペンスの金字塔。主演はブラッド・ピットとモーガン・フリーマン。舞台となるのは、名前のない終始雨が降り続く陰鬱な大都市。この街で退職間近の老刑事サマセット（モーガン・フリーマン）と、若く血気盛んな新人刑事ミルズ（ブラッド・ピット）が、連続猟奇殺人事件を追うストーリーです。

 

犯人は「七つの大罪」（傲慢、嫉妬、憤怒、怠惰、強欲、暴食、色欲）に基づいて殺人を計画し、それぞれ異なる手口で次々と犯行を重ねていきます。2人は猟奇的な現場に直面しながら、人間の罪深さと絶望に飲み込まれそうになりながらも、真相を追い続けます。

 

監督デヴィッド・フィンチャーと『セブン』の世界観

デヴィッド・フィンチャーは、『エイリアン3』で注目されたのち、この『セブン』で一躍トップ監督の仲間入りを果たしました。フィンチャー特有の、冷徹なまでに美しい映像美、陰鬱な空気感、そして観る者に救いを与えないストーリーテリングは、この作品で確立されたとも言われています。

 

『セブン』の世界では、終始雨が降り続きます。この「雨」は物語全体のムードを象徴する重要な要素です。登場人物たちは濡れながら現場に急行し、泥まみれになりながら真実を追いかける。雨はまるで、街に染みついた罪や腐敗を洗い流すことすらできない無力さを暗示しているかのようです。

 

俳優陣──ブラッド・ピットとモーガン・フリーマン

ブラッド・ピットは若く熱血漢のミルズ刑事を演じ、持ち前のエネルギッシュな演技で観客を惹きつけました。粗削りながら正義感にあふれ、感情的になりやすいミルズの姿は、ブラッド・ピットの魅力を最大限に引き出しています。

一方、モーガン・フリーマン演じるサマセット刑事は、冷静沈着で知識も豊富。感情よりも理性を優先するサマセットの存在が、ミルズとの対比を際立たせています。フリーマンの低く穏やかな声、深みのある表情が作品に重厚感を与えました。

2人の対照的なキャラクターが、物語に絶妙な緊張感とバランスをもたらし、『セブン』を単なるサスペンスに終わらせない深い人間ドラマへと押し上げています。

 

雨とネクタイ──スタイリングが語るもの

『セブン』では、ファッションもストーリーを彩る重要な要素です。特に注目すべきはネクタイ。

サマセットもミルズもスーツにネクタイ姿で登場しますが、その着こなしには性格がにじみ出ています。サマセットは伝統的なダークスーツに落ち着いた色のネクタイを合わせ、ベテラン刑事らしい控えめな装い。一方ミルズは、ややラフでカジュアルな雰囲気を漂わせ、スーツの着崩しや、少し派手なネクタイ使いで若さと未熟さを表現しています。自分で結べないので、結んだ状態でハンガーにかけてもらってある中から選ぶシーンがとても印象に残る。

 

また、映画全体に漂う「雨」というモチーフとネクタイの関係性も見逃せません。ずぶ濡れになったネクタイ、よれたシャツ、しわくちゃのジャケット──これらは、秩序だった世界の崩壊、無力感、そして人間のもろさを象徴しているかのようです。

ネクタイは本来、きちんと締められたものですが、『セブン』の世界ではその形すら崩れ、救いのない現実を静かに語っています。

『セブン』が今なお愛される理由

『セブン』はただのサスペンス映画ではありません。人間の弱さ、罪深さ、社会の腐敗──それらを正面から描き切った作品です。ラストシーンの衝撃は、いまなお映画史に残る名場面として語り継がれています。

デヴィッド・フィンチャーによる緻密な世界観作り、ブラッド・ピットとモーガン・フリーマンの名演技、そして小道具や衣装に至るまで細部に宿るテーマ性。

『セブン』は、観る者に「正義とは何か」「人間とは何か」を問い続ける、圧倒的な力を持った作品です。

もしまだ観たことがないなら、そして観たことがある人も、あらためてあの“絶望の雨”に身を沈めてみてはいかがでしょうか。きっと、ネクタイ一つにも込められた深い意味に気づくはず。